第3回研究会の報告 2018年12月2日(日)
於:兵庫教育大学神戸ハーバーランドキャンパス

2018年12月2日(日)兵庫教育大学神戸ハーバーランドキャンパスでの第3回研究会が無事に終了いたしました。当日は、13件のポスター発表(発表者29名)と78名の一般参加者、関係者を合わせて、約130名のご参加をいただいて、第3回研究会を開催いたしました。

写真1.jpgポスター発表は、2会場に分かれ、2部制で各1時間ずつ行いました。発表では、就学前から高校、そして高校卒業後のキャリア形成に至るまでの様々な段階が取り上げられ、いずれも実践、研究に携わる方たちにとって有益な意見交換の場となったのではと思います。また、今回は午後のプログラムとの関係もあってか、子どもたちの自ら考える力、学習意欲を高めることを目指した研究発表が複数見られました。さらに、言語文化面だけでなくジェンダーも含めた観点から多様性をとらえる必要性を指摘する発表もあり、より広い意味での配慮や支援が必要なことに気づかされる、大変有意義なセッションとなりました。

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当日は12月とは思えないほど気温が高く、会場の空調は自動調整で操作できなかったため、ご迷惑をおかけしてしまいましたが、多くの参加者の方々と発表者の間で交わされる議論の「熱さ」の反映であったかと思います。多くの方が発表時刻を過ぎてからも、熱心に質問したり議論したりする様子が見られ、撤収の声をかけるのがはばかられるほどでした。

午後は、講演とパネルディスカッションを行いました。まず、「子どもたちの思考を育む『ことばの教育』」と題して、慶應義塾大学 今井む写真3.jpgつみ教授にご講演をいただきました。今井教授は、認知科学の知見から色の範囲や動詞の表す意味が言語によって異なる例を示され、ことばと他のことばの境界を理解することや、コロケーションなどのことばの慣習的な用い方を知ることが「生きたことばのちから」には必要であると話されました。また、意味を知っているだけでは活用することが難しく、活動や体験を通して使用することで、言語そのもの(全体)を知ることができ、活用できることばを身につけることにつながると話されました。

これからのことばの教育には、「単語をたくさん覚えさせる」こと(ドリル)よりも、文脈や状況を解釈しながらことばを適切に、柔軟に使い、さらにはそこから新しい知識を得られる能力の育成が求められています。「自分で考えて、学ぶ力」を育むことを主眼とした教育・支援の重要性を学びました。
続いて、パネルディスカッション「多様な言語文化背景を持つ子どもたちの「考える力」を育む-日本語と教科の学習支援を通して」を行いました。はじめにコーディネーターの東京学芸大学 齋藤ひろみ教授から、パネルディスカッションの趣旨や多様な言語文化背景をもつ子どもの課題や展望について説明がありました。
次に二人の登壇者から「地域の教育コミュニティが目ざすもの」「「考える力」を育む問いと支援」という内容で、それぞれの実践発表をしていただきました。
地域支援団体NPO法人関西ブラジル人コミュニティの理事長である松原マリナさんからは、団体設立の背景や、子どもたちが日本の学校社会にも適応し、進路や将来設計を家族とともに考えるために必要な環境を作ることをめざしていること、そのために日本語、母語(ポルトガル語)の基盤を構築したり、アイデンティティについて自ら考えさせたりする様々な活動を紹介していただきました。
篠山市立岡野小学校の高見成幸さんからは、小学校5年生の通分が必要な分数の足し算の授業において児童が誤答した事例が紹介されました。「なぜ?」と繰り返される教師の問いかけに、児童自身が誤りに気づき、最後に思考の過程を日本語で説明することを通して計算の方法や考え方について、深く考えることができた授業実践でした。
その後、コメンテーターの今井教授から、実体験の中での学ぶことの大切さやことばを学習する必要性を感じさせることの大切さが語られ、松原さんの活動の意義を説明されました。また、分数のような数に対する概念を再構築するような学習では正解を教えてもできるようにはならず、子ども自身が間違いを発見し納得することが不可欠であることや、その過程でことば(この場合日本語)を使うことで、そのことばに対する愛着を感じ、言語を学ぶモチベーションを高めると話されました。
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定住化し、将来も日本で生活を続けようとしている子どもたち。自分のアイデンティティを生かし、海外での活躍を夢見ている子どもたち。そういう子どもたちの未来に関わる責任を感じつつ、明日からの取組のヒントや活力を得ることができた1日となりました。
今後も、全国のみなさまと課題と成果を共有し、外国につながる子どもたちの自己実現を図る取組を進めてまいりたいと思います。最後になりましたが、第3回研究会の運営にご協力いただきましたご参加のみなさまに感謝申し上げます。

子どもの日本語教育研究会 第3回研究 実行委員長 村松好子(兵庫県教育委員会)

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