報告1 特別企画「九州・沖縄からの発信」2020年8月23日

報告第1弾 2020子どもの日本語教育研究会
特別企画「九州・沖縄からの発信」

報告を2回に分けて掲載します。第2弾は会場からの質問への回答・アンケートです。
なお、報告 特別企画「九州・沖縄からの発信」(全体)はPDFでもご覧いただけます。

2020年8月23日(日)、特別企画「九州・沖縄からの発信」を開催いたしましたので、報告いたします。当初、九州・沖縄地区で初めて子どもの日本語教育研究会ワークショップを開催するということで、福岡市日本語拠点校(福岡市JSL日本語指導教育研究会)の有志の先生方、佐賀、長崎、福岡のメンバーで準備を重ねてまいりました。今年度に入り、コロナウィルス感染拡大防止の観点から、オンラインでの開催に舵をきることとなり、不安もありましたが、「今、できることをする」「歩みをとめない」を合言葉に、何とか無事に本企画を終了することができました。福岡市教育委員会、九州国際学生支援協会からはご後援いただきました。この場を借りて、ご報告者をはじめ、ご協力くださった多くの関係機関・関係者のみなさまに改めて感謝申し上げます。
この間、本企画を「日本語指導が必要な子ども」に対する九州地区の課題の共有や連携を進める一助とするという目的で、各県と政令指定都市教育委員会へのアンケート調査を実施し、その調査を通して、実行委員会としましても九州各地域の状況を改めて確認することができました。時間の制限もあり、すべての県にご報告いただくことはできませんでしたが、県や市の単位で日本語支援体制を構築していっている佐賀県や福岡市、熊本の、NPOの立場からの日本語支援体制構築の事例、宮崎の、大学のベンチャー企業が進める産官学民連携の取り組み、基地がある地域ならではの課題に取り組む沖縄、といったように、この調査と人のつながりを通じて九州・沖縄の特徴的な事例を選定することができたのではないかと思っております。今回5件のご報告とパネルディスカッションのみの実施とはなりましたが、3日で席が埋まるほどの盛況ぶりで、みなさまの関心の高さがうかがえました。キャンセル待ちのお問い合わせも多くあったということで、子どもの日本語教育研究会事務局より、オンラインセミナー・動画で振り返る「特別企画:九州・沖縄からの発信」(9月20日)が企画されることにもなりました。
本企画の成果としましては、パネルディスカッションの中では、ひとりで課題を抱え込まず困り感を共有することが大事であることが指摘され、実践や課題を共有する場、研修の場を定期的にオンラインで開催してはどうかという具体的なご提案もいただきました。また、開催後のアンケートでは、参加者のみなさまの多くから、「九州・沖縄の子どもの日本語教育についての現状を知ることができ有意義であった」、「様々な立場での外国につながりを持つ子供たちへの支援に関しての事例や実践、また問題点に対する解決法などをお聞きし、大変勉強になった」、「これが変わる一歩」とのコメントをいただきました。さらに、予告なしの終了後の茶話会では半数以上の方がお残りくださり、ここでも新たなつながりが広がったとの報告をいただき、準備委員一同たいへん嬉しく思っております。九州・沖縄地区は離島も多く、なかなか一堂に会する機会が得難いですが、今回オンラインという形だったからこそ、 こうした連携の道筋をつくっていく一歩が踏み出せたのではないかとも思います。まだ一歩を踏み出したにすぎず、具体的なことはこれからということになりますが、他地域の様々な経験の蓄積に学びながら、今回の連携の芽を大事に育てていくことができればと考えております。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

2020ワークショップin Kyushu実行委員会一同を代表して
実行委員長 松永典子(九州大学)

*****   ブログラム   *****

1)実践者・支援者の事例報告
a 熊本県:「熊本県でNPOが進めてきた学校への日本語指導員
派遣10年間の取り組み~現状と課題~」
岩谷美代子(NPO法人外国から来たこども支援ネットくまもと副代表)
b 宮崎県:「宮崎における日本語学習支援のあり方に関する
一考察-学校教育支援モデルの試案-」
原田真理(宮崎国際教育サービス株式会社事業推進部主任)
c 沖縄県:「沖縄県の子どもの日本語教育に関わる実践事例報告」
平良ゆかり(沖縄県読谷村立渡慶次小学校教頭)
天願千里佳(沖縄県北谷町立浜川小学校日本語教室担当)
髙橋美奈子(琉球大学教育学部准教授)
渡真利聖子(琉球大学グローバル教育支援機構講師)

2)受入れ・指導体制の事例報告
d 福岡市:「福岡市の日本語指導体制」
池田尚登(福岡市日本語サポートセンター・コーディネーター)
e 佐賀県:「佐賀県の支援体制について」
吉原正(佐賀県教育庁教育振興課指導主事)

以下、当日のⅠ.パネルディスカッションの内容、Ⅱ.質問事項への各報告者からの回答、Ⅲ.参加者アンケートからのレポートについてご報告いたします。

Ⅰ パネルディスカッションの内容

1.指導者・支援者としての課題

 ①日本語の指導時間が足りない、という問題をどのように解決しているか・・・
熊本:NPO団体に市町村からいただける予算が違い、指導時間が足りなくなるケースもある。
 その場合、①学校での支援に移行する→これまでの教え方や教材を学校の先生でも引き継いでいただけるようにする。②地域日本語教室のある地域では、ボランティアの方が、1週間に1度夜に指導を行う等の、連携がとれている。
 宮崎:指導者の指導時間が年間700時間と限られているので、大学生のボランティアさんにお願いをしている。
 ②指導者が孤立している、どのような指導をしたらいいか困っている・・・

 福岡:「JSL日本語指導研究会」を毎月1回開催している。福岡市の先生、研究者、他地域からの参加者もあり、ネットワークを作ることで、1人で悩まずに相談ができる場を作っている。この研究会が拠り所となっている。
沖縄:沖縄県子ども日本語研究会という団体があり、それが福岡同様、ネットワークを作って研究会を行い活動している。
熊本:毎月第3土曜日にNPO内で研修会を行っていて、子どもの問題点等を出し合い話し合っている。
③ベンチャー企業を設立して、どのように利益を生もうとしているか・・・日本語支援員だけではなかなか生計が立てられないために若い人が育たない、NPO法人や団体の資金源に困っている等の問題を抱えているところが多いので、ベンチャー企業としての利益の生み方に大変興味がある。
宮崎:会社であるから利益を生まなければならず現在苦戦している。予算内容は、銀行からの投資、委託事業として国際交流協会、大学、各市など公的なものが多いが、企業からの日本語研修もしている。大学で420時間の日本語教師養成講座を実施し、そこでこの企業ミーズを通して日本語教師の資格を取った人が日本語支援員等の活動へと繋げていく循環型のシステム作りを目指している

2.支援体制についての課題
①沖縄県教育委員会に日本語支援担当主事がいないため、指導者の配置、子どもの情報等うまく集約されていない・・・どのように連携をしていったのか知りたい
佐賀:県の指導主事が市町の指導主事と一緒に現場を訪れるところから始め、現場の困り感を共有しなければならない。他の機関と繋がってできるところからやっていく。
動こうとしたきっかけは、散在地域であったのでそれまで何も知らない状況であったが、2016年から日本語指導に本格的に取り組むようにと国の施策が出され、取り組むようになった。
今回をきっかけとして、九州の指導主事が研修会等で、繋がっていき全体として前へ進んでいけたらと思う
熊本:現状と課題をこまめに報告することが大切だと思う。これまでこういうことをしてきたが、まだここが足りないというスタンスで話をしていくことが大事だと思う。昨年からうまく回り始めたので、県とNPOの連携した全県的なシステム作りを目指している。
福岡:現場を知っている校長先生が教育委員会に入られ福岡市の現在の日本語指導体制を構築された。動かす人がいるいいタイミングに一気に指導体制が作られた
宮崎:(大学が動いているので、連携が作りやすいという質問を受け)自分としては、それぞれの立場があり壁を感じたので、連絡協議会が宮崎でもできるのが楽しみだ。
沖縄:長期的に、日本語指導者や支援者が関われるようなシステムを作りたい。
熊本:日本語指導が終わった子どもたちが、日本語教室に行っている。個人の力ではあるが、NPO代表は毎週末自宅を開放し、日本語指導を行い、長期支援をしている。長期にその子を見守る
大人の存在は重要で、例えばダブルリミテッドの子も勉強に目覚め頑張れるようになったという例もある。

3.今回のように九州各県の情報を得て、課題を共有し、相互に意見交換をしたことの成果
今後の連携の在り方について

宮崎:県教委がゲストを呼んで研修会を行う。しかし、なかなかそれが実践に繋がらないことが多い。教育実践の内容を共有できる場があったら嬉しい。例えば何々県の実践を共有したい。学校教員、県教委、協会、大学、企業等それぞれ違った立場の人たちが参加できるものがあったらいい。教育実践へと繋げていく場が今後九州であるとすてきだなと思った。
沖縄:沖縄は離れているのでこれまでなかなか研修会に参加できなかったのだが、今回のリモート会議形式は、参加が容易で、他県の実践を知るいい機会になったので、 オンラインで繋がることは私たちにとってとてもいい学びになるので定期的なオンライン研修会を設けたらいいと思う。
対面でのワークショップも勿論いいが、オンラインは今回とてもよかった。
福岡:(実行委員の立場から)当初から九州各県の繋がりを作りたいと思い計画を立てていたので、オンラインという形だが今日実施することができ、今後も何らかの形でこの繋がりを残して、次の研究会や実践事例の発表等ができればと思っている。
佐賀:各県から共通の課題が出ていたと感じる。自分のような指導主事という立場の方が九州各県に存在するので、その方達と繋がって情報を共有しながら、どういう形が前に進む方向なのかを考えたい。我々が学ぶべきことはまだたくさんあると感じた。

まとめ: 実行委員・早瀬郁子(福岡大学)

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