第6回大会 分科会2
「研究企画委員会プロジェクトB報告会」 報告

子どもの日本語教育研究会第6回大会(2021年3月6日)
分科会2 研究・企画委員会 プロジェクトB 報告
子どもの「ことばの学習」をデザインする-「参加とことば」の視点から

子どもの日本語教育研究会の研究・企画委員会には「プロジェクトA」「プロジェクトB」の二つのプロジェクトがあります。
プロジェクトAは実践から学び、新たな実践・研究につなげる「実践の集積」を目的として活動を行っています。その活動の一部は昨年第5回大会で報告されました。
プロジェクトBは実践と理論的な研究とを橋渡しする活動を目指しています。その手始めとして西口光一著『新次元の日本語教育の理論と企画と実践:第二言語教育学と表現活動中心のアプローチ』(くろしお出版2020年刊)を踏まえて子どもの日本語の学びについて考えることにしました。以下では当日の報告の概要を再録します。

1 読書会報告:浜田麻里(京都教育大学)
読書会での西口氏による解題と議論の概要が報告されました。西口氏は日本語教育を学習すべき言語事項を選択して配列する「言語ベース」から、従事できるようになることを目標とする「活動ベース」へと転換することを提案しています。自身の留学生による実践では、学習者はナラティブの教材からテーマについての「期待される」言語活動を知り、テーマの言語活動に奉仕する言葉遣いを自身で「つかみとる」という学習プロセスを設計しているとのことでした。
その後の議論を踏まえて、子どもも大人同様、ことばを「つかみとる」ことが重要だが、子どもと大人のちがいを考えることが重要であること、「参加」のあり方や「つかみとる」ことの支援のあり方から考えてみる必要があることが確認され、本分科会では各実践現場からの問題提起を元にこの二つについて深めていきたいと、本分科会の趣旨が述べられました。

2 実践からの問題提起
(1)川口直巳(愛知教育大学)
川口委員からは、保育園での取組が紹介されました。外国人園児は保育園で日本人園児と同様に楽しく活動に参加しているように見えても、それがことばの習得には結びついていないことがあります。発表では保育活動の中で特定のことばを何度も繰り返し聞いたり話したりする活動がビデオで紹介されました。そして、ことばを習得するプロセスそのものが「参加」であり、この活動の中ではことばを聞き流させない工夫がなされているとの分析が示されました。

(2)藤川美穂(岩倉市日本語・ポルトガル語適応指導教室)
藤川委員は、中学生を対象とした日本語教育を行っています。生徒が「参加」できるようになる前にまず日本語が必要と考える人があまりに多いが、実はことばを獲得しながら参加するプロセスをどう作るかが重要という指摘がなされました。一人の生徒の学校生活には、授業、部活、友人関係などいろいろな文脈があり、それぞれの文脈でことばによる参加を実現するため、生徒を日本語教室に囲い込まず開いていくことが必要であることが述べられました。

(3)小川珠子(中国帰国者支援交流センター)
小川委員は中国・サハリン帰国者である中学生を対象とした中学校への体験入学の取組を紹介しました。生徒達はみな活動に「参加」したいと思っています。授業での生徒たちの様子から、生徒たちが授業に参加するために、教科内容や英語の知識等の既有知識や辞書の活用、隣の席の生徒の支援等、さまざまな手がかりによって授業に参加しようとしていたことが浮かび上がりました。

(4)河野あかね(つくばインターナショナルスクール)
河野委員からはインターナショナルスクールの幅広い年齢層の子ども達について報告されました。子ども達の「参加」には「参加される」側であるクラスメイトとのやりとりが関わっており、発達段階毎に「参加」の様子が異なっていることが紹介されました。また「参加させる」側の教師の意識も変化していくことが述べられました。

3 論点整理:齋藤ひろみ(東京学芸大学)
齋藤委員が4つの発題を受けて「ことば」の学びを、「年齢的発達」(垂直軸)と「周囲の環境との相互作用」(水平軸)の2つの軸で整理しました。報告では、幼少期にはある目的をもった活動を行う中で、その経験がことばを得ることで意味付けられ、一定の言語(母語を含む)の力をもつ子どもの場合は、ことばが新しい学習を支えていました。発達の状況によって「ことば」が学習において果たす役割は異なっています。また、周囲の人・事・物との社会的相互作用が「ことば」によって動かされ、その過程を通して子どもは「ことば」を「つかみとっている」という分析が示されました。
そして論点として、「参加」と「ことば」の関係に関し、「『参加』は、こどもがその活動を行いながら、新しい意味をつくる過程」「『ことば』は『参加』のための道具であり、また、『参加』の結果として発達するもの」という捉え方が提示されました。

4 討議
会場からの質問やご意見をめぐり、報告者からの応答、報告者間のディスカッションを行いました。質問には次のようなものがありました。
・子どもたちに「聞き流させない工夫」の必要性について詳しく知りたい
・西口氏の「言葉遣いをつかみとる」ということの「言葉遣い」をどう捉えているのか。
・コミュニケーションによって外言が内言になるということはどういうことか。
・子ども同士でグループ活動はできないか。
・ゼロスタートの園児や小学生への指導へのアドバイスを。
・「参加」の成立には、教室の子ども達が「実践協働体」になる必要があるのでは?

オンラインという環境であり、また発表資料を手元で見てもらうことができなかったため、ご不便をおかけしました。それでも議論に加わってくださった皆様に感謝します。

今後もプロジェクトBでは子どものことばを「参加」との関わりで考える取組を続けていきます。ご意見等ありましたら、ぜひプロジェクトBまで(konichiken.projectb@gmail.com)お寄せください。※当日のスライドの配付はしていません。

報告者:浜田麻里(プロジェクトBチーフ 京都教育大学)

プロジェクトBメンバー(50音順)
内田千春(東洋大学)・小川珠子(中国帰国者支援交流センター)・川口直巳(愛知教育大学)・河野あかね(つくばインターナショナルスクール)・齋藤ひろみ(東京学芸大学)・櫻井千穂(広島大学)・浜田麻里(京都教育大学・チーフ)・藤川美穂(岩倉市日本語・ポルトガル語適応指導教室)

 

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